History ofVerner Panton
ヴァーナー・パントンの歴史とその思想
1960〜70年代のデザインシーンを牽引したデザイナー、ヴァーナー・パントン。鮮やかな色彩と未来的なフォルムで、それまでの常識を覆し、現代の家具や照明デザインにも大きな影響を与えました。
ヴィトラやルイスポールセン、フリッツ・ハンセンなど、名だたるブランドとともに数々の名作を生み出した彼の存在は、今なお色褪せることがありません。
本特集では、パントンの歩みを辿りながら、その魅力と思想に迫ります。
ヴァーナー・パントンとは

1926年、デンマークのフュン島にあるブラヘスボルグ=ガムトフテに生まれる。18歳の頃、オーデンセ工科大学に通い、その後建築を学ぶためにコペンハーゲン王立芸術アカデミーへ進学。1950年から2年間、アルネ・ヤコブセンの事務所に務め、家具のデザインを担当。“アントチェア”の開発にも携わっている。1955年に自身の事務所を設立。折りたたみ式住宅(1955年)、段ボールの家、プラスチックハウス(1960年)など、斬新なアイディアから“型破りな存在”として注目を集めました。最も好きな色は「赤」。自身の作品はもちろん、自邸では赤いセブンチェアを愛用していました。
はじめてデザインした椅子
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パントンが初めて椅子をデザインしたのは、独立して間もない頃のことでした。デンマークのチボリ公園内にあるレストランのために手がけた“チボリチェア”は、スチールフレームにペーパーコードを手作業で巻き付けて背と座を構成する、実にシンプルで軽やかな構造が特徴です。
当時のデンマークでは木製家具が主流であったため、スチールを用いたこの発想は非常に斬新であり、パントンの先進性を象徴する試みでもありました。
本作はフリッツ・ハンセンによって製品化された後、一度は廃番となりますが、のちにモンタナによって“パントン・ワン”の名で復刻。現在もなお、彼の原点を示す作品として高く評価されています。
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父からの想いに応える形で
生まれた“コーンチェア”
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1958年、事務所設立後初の大きなプロジェクトとなったのが、ランゲソ公園内のゲストハウス「コムイゲン」の増築・改装でした。オーナーである父から依頼を受けたパントンは、建築だけでなく、家具や照明、テキスタイル、さらにはスタッフの制服に至るまで、空間を構成するすべてをトータルでデザインします。
その中で生まれたのが、“コーンチェア”です。円錐を逆さにしたシンプルな発想から生まれたフォルムは、当時としては非常に斬新で、空間の中でもひときわ強い存在感を放ちました。
当初は小さな工房で製作されていましたが、起業家パーシー・フォン・ハリング=コックがその革新性に魅了され、この椅子のためにプラス=リニエ社を設立。量産化に成功したことで世界的なヒットを記録します。この成功は、その後の「ハートコーンチェア」や「ワイヤーコーンチェア」へとつながり、パントンの代表作の系譜を築いていきました。
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パントンとヴィトラが
情熱を注いだ“パントンチェア”
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パントンは1956年、ヘリット・トーマス・リートフェルトの「ジグザグチェア」に着想を得て、成形合板によるカンチレバー構造の「Sチェア」を発表しました。さらにその発想を発展させ、背と座が一体となったプラスチックチェアの実現を目指します。
しかし当時はまだ木製家具が主流であり、プラスチックを用いた量産技術は確立されていませんでした。その革新的なアイディアは、長らく製品化の目処が立たない状態が続きます。
転機となったのがヴィトラとの出会いでした。1960年代初頭から開発が進められ、試行錯誤の末、約7年の歳月を経て世界初の一体成形チェア「パントンチェア」が誕生します。その流れるようなフォルムと革新性は、デザイン史における象徴的存在となりました。
その後も改良は重ねられ、1999年には現在のポリウレタン製モデルが完成。共同開発を行ったヴィトラにとっても自社初のオリジナル家具となり、両者にとって思い深い1脚です。
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スペースエイジ期を
象徴する“パンテラ”
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1960〜70年代、アポロ計画に象徴される宇宙開発の高まりとともに、“スペースエイジ”と呼ばれる近未来的なデザインムーブメントが生まれました。プラスチックやFRPといった新素材を用い、赤やオレンジ、白などの鮮やかな色彩と、有機的で流れるようなフォルムが特徴です。
その流れの中で誕生した照明“パンテラ”も、まさに時代を象徴するデザインのひとつです。発表当初はビビッドなカラーバリエーションで展開されていましたが、時代の変化とともに、ホワイトを基調とした落ち着いたラインナップへと広がっていきました。
発表後は世界的なヒットとなり、テーブルランプはサイズ違いのバリエーションが展開。さらに2020年にはポータブル仕様も登場し、現代のライフスタイルに寄り添う照明として、高い人気を誇っています。
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展覧会“ヴィジョナ”から生まれた
彫刻的な家具たち
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1968年から1970年にかけて開催された“ヴィジョナ”は、パントンのキャリアの中でも特に実験的な試みとして知られています。ケルン家具見本市の期間中に行われたこの展覧会は、FRP素材の可能性を提示する場でしたが、パントンは鮮やかな色彩と多様な素材を組み合わせ、未来の暮らしを想起させる空間を創り上げました。
なかでも1970年の“ヴィジョナ2”では、有機的で洞窟のようなインテリアが大きな話題を呼び、従来の空間デザインの概念を大きく覆すものとなりました。
この展覧会のために制作された家具は、その後「リビングタワー」や「アムーベ」「ヴィジョナスツール」として製品化。彫刻のような造形と空間との一体性を備えたこれらの作品は、パントンの世界観を象徴する存在となっています。
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Amoebe
Amoebe
Highback
Visiona Stool
Living Tower
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パントン作品から見える
3つの要素

大胆な実験精神
パントンにとってデザインとは、実験と革新を積み重ねた先にある到達点でした。彼は本質を見極める体系的なアプローチを貫き、「できない」という発想にとらわれることなく挑戦を続けました。その原動力となったのは、“人々の住環境をより豊かにしたい”という強い信念でした。周囲に“狂気(マッド)”と評されても、自らの道を疑うことなく進み続けました。

暗い色を避けた、鮮やかな色彩
1950年代以降、パントンは“人は好きな色の上に座ったほうが心地よい“という信念のもと、家具に積極的に色彩を取り入れるようになります。彼のカラースペクトルは、黄色からオレンジ、赤、紫、青、ターコイズブルー、緑へと連なる明快な構成が特徴でした。暗く濁った色は避け、鮮やかで純度の高い色彩によって、空間に感覚的な豊かさと高揚感をもたらそうとしました。

新素材を用いるアイディア
木製家具が主流だった時代に、パントンはプラスチックなどの合成素材に可能性を見出し、新たな表現を切り拓きました。その革新的な姿勢は従来の北欧デザインとは一線を画し、「スカンジナビアデザインのユニークな例」や「異端児」とも評されます。しかしその挑戦は、後のデザインに大きな影響を与える先駆的なものでした。
パントン、幻の作品たち
近年、パントンの名作は復刻が進み、手にできる機会が増えてきました。
しかしその一方で、現在は販売されていない魅力的な作品も数多く存在します。
ここでは、そうした貴重なプロダクトの一部を、イラストとともにご紹介します。

Wire Cone Chair
ワイヤーを巻いて作られた、コーンチェアの後継モデル。ポール・ヘニングセンはこの椅子を自邸で愛用していた。

VP Europa
吹きガラスのシェードが特徴 的な照明シリーズ。シェード上部はオパールガラスになっており、グレア(眩しさ)を考えたデザインになっている。

Vilbert Chair
イケアで世界3000台限定で販売された椅子。4枚のMDF板をネジ止めして作られたシンプルな構造。

Ball Lamp
プラスチック製のボールで 光源を包む斬新なデザイン。ボールのサイズが異なるものを組み合わせるなど、豊富なバリエーションがあった。
パントンが尊敬するデザイナー

アルネ・ヤコブセン
20代の頃、ヤコブセンの事務所に務め、家具デザインを担当していた。アントチェアの開発にも携わっている。パントンは「年を重ねるにつれて、ヤコブセンへの尊敬の念は深まるばかり」と語っている。

ポール・ヘニングセン
パントンは学生時代にヘニングセンの継娘であるトーベ・ケンプと出会い、結婚するがその後離婚。しかし、ヘニングセンとの親密な交友関係はヘニングセンが亡くなるまで続いたという。重要な師のひとり。
生誕100周年
“これからのパントン”を提案
2026年はパントン生誕100周年。
それを記念して、各ブランドでパントン作品の
ブラッシュアップや復刻など“新たなパントン”が提案されています。

パンテラシリーズの初期カラーが復活!
パンテラシリーズは、発表当時6色のカラーで展開されていました。時代の流れを経て、シンプルなカラーに落ち着いていきましたが、100周年を記念して当時のカラーが復活。置いてあるだけでも目を引く鮮烈なカラーは、現代のインテリアにも馴染みます。
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現代に調和するカラー
コーンチェアやアムーベなど、パントンを代表する名作チェアの張地が刷新されました。従来の大胆で鮮やかなファブリックに加え、現代の空間に調和する落ち着いた素材やレザーが新たにラインナップ。アート性の高いデザインはそのままに、住まいやオフィスにも自然と馴染むコレクションへと進化しています。
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いかがでしたでしょうか?
パントンの歩みと作品を辿ると、その造形の美しさだけでなく、常識にとらわれず挑戦し続ける姿勢こそが、デザインの本質であることに気づかされます。
時代を超えてなお色褪せないその思想は、これからの暮らしやデザインを考えるうえでも、大きなヒントを与えてくれるはずです。
デザイナーヒストリー
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