デザイナーであり建築家であるJean Prouve(ジャン・プルーヴェ)の代表作といえる椅子「Standard(スタンダード)」。当店でも人気の高い椅子ですが、なぜ長きに渡り多くの方が魅了されるのでしょうか。今回の特集では、この名作の魅力を様々な観点から探ります。
"スタンダード"と呼ばれる椅子
ジャン・プルーヴェの代表的な椅子で、彼の手掛けた椅子作品の定番という意味から"スタンダード"という愛称で親しまれています。
その起源は1934年までさかのぼります。"Chaise No.04"という名称で発表されたその椅子は、幾度も素材や構造の改良を加え、1950年に現在のフォルムに。1980年代に最後のモデルが発表されました。
生産終了後はコレクターの間でヴィンテージが高い人気を誇っていました。現在はVitra(ヴィトラ)社より復刻され、手の届きやすい存在となり、国内外問わず数多くの人たちに愛され続けています。さらに、2014年には強化プラスチックを使用した"スタンダードSP"が発表され、より豊富なバリエーションを楽しめるようになりました
"スタンダード" の歴史
"スタンダード"の初代モデルが誕生したのが1934年。完成形になる1950年までの間に、様々な変化を遂げてきました。どのように現在のフォルムになっていったのか、初代モデルから振り返ります。
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1934 Chaise No.04
材:折り曲げ薄鋼板、鋼管、成型合板
初代モデル。この時点で特徴的な後ろ脚が採用されているが、他のモデルと比べて少し角度がつけられている。また、少し高さが低くなっている。
1935年よりアトリエジャンプルーヴェにて作業工程の軽減によるコストの見直しを行い、本製造開始。
1941 Chaise Tout Bois
材:無垢材、成型合板
すべて木材を使用して作られたモデル。第二次世界大戦によって金属が不足し、入手可能な木材でプロトタイプを作成。スチールに比べて耐久性が低いため、脚の位置や角度など、何度もテストを行い完成した。少し傾斜のあった脚は、横から見た時に床と垂直になり、現在のスタンダードのフォルムに近くなった。
1950 Cafétéria No. 300
材:折り曲げ薄鋼材、成型合板
専門的な知識がなくとも組み立てが可能なモデルを発表。今まで木のフレームで作られてきたが、当時シャルロット・べリアンらと行っていたアフリカの施設への納品を考慮して、スチール製のフレームを採用している。
"シェーズ トゥ ボワ" 初の復刻
座るときに一番負荷のかかる箇所を太く強度を持たせることを考え、プルーヴェ作品の特徴ともいえる三角形の脚をシェーズ トゥ ボワでも採用しています。初代モデルでは後ろ脚に少し角度がついていましたが、接合にホゾを使うことで直線的なフォルムに。現在のスタンダードに繋がる形状となりました。
1947年に"Meubles de France"というコンペに出品し、見事大賞を受賞。生産終了後、市場で見ることはほとんどありませんでしたが、2020年にヴィトラより待望の復刻となりました。当時のデザインを再現しつつ、現代の暮らしに合うよう大きさや高さを調整しています。
※ Vitraオフィシャルサイト内でシェーズ トゥ ボワのエピソードが公開されています。興味のある方は是非ご覧ください。 詳しくはこちら(Vitra.comへ)
"スタンダード"と"シェーズ トゥ ボワ" 徹底比較
スチールを用いた"スタンダード"とオールウッドの"シェーズ トゥ ボワ"。素材が違うことで異なるアプローチやフォルムの違いが見えるはず。当店スタッフが"スタンダード"と"シェーズ トゥ ボワ"を徹底比較し、それぞれの違いや魅力を紹介します。
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比較をしてみて、思うこと
全てのパーツに木材を使用した“シェーズ トゥ ボワ”は、強度を保つために通しほぞを採用しつつ、幕板にあえて余白を作り軽やかさと見た目の美しさを考慮しており、金属が手に入りにくい状況の中でもより良い椅子を作ろうとするプルーヴェの想いを感じ取ることができました。そして、このシェーズ トゥ ボワを経て生まれたスタンダードに改めて触れることで、この椅子が完成形になったことも納得できます。
プルーヴェの作品の中でオールウッドの椅子は、スチールを組み合わせたものに比べて当時は少し野暮ったく感じられたかもしれません。しかし、現代では木の椅子を暮らしに取り入れ、経年変化やその価値を楽しむ人も数多くいます。ものの付加価値を大切にする現代にシェーズ トゥ ボワが復刻し、それぞれの魅力を楽しめるようになったことは大変喜ばしいことだと思いました。
考察、“スタンダード”の魅力。
ジャン・プルーヴェは、自らを"建築家"ではなく、"建設家"と言い、スケッチをする際もディテールから描き上げるという職人気質な人でした。この"スタンダード"も、一見するとシンプルな椅子ではありますが、頑丈で壊れず長く使えること、寄りかかった時に落ち着く角度であること、座面の先を折り曲げることで膝の裏に負担がかからないことなど、使い手のことを深く考えて作られています。デザインという観点だけでなく、職人の熱量を感じることができる椅子なのです。
“スタンダード”が長く愛され続けているのは、そんなプルーヴェの想いが伝わり、多くの人たちの中で暮らしに欠かせない存在となっているからなのかもしれません。