H.L.D. オンラインストア スタッフが、
毎月ひとつの名作=マスターピースに思いを馳せるコラムです。
肩の力を抜いて、普段のページではあまり書くことのないようなことを語ります。
仕事や家事のひと休憩や、帰宅中の電車の中、くつろぎの時間の合間など
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第3回リ・デザインでありながら、オリジナル
ハンス J. ウェグナーの家具に興味を持ち始めた頃、同じ時期に知ったボーエ・モーエンセンの「J39」。この椅子は、キリスト教の一宗派であるシェーカー教徒が使用していた“シェーカーチェア”のリ・デザインです。
“リ・デザイン”。
デンマークデザインの父、コーア・クリントが提唱していた“過去の歴史や様式を見直し、時代に合うよう再構築する”という考え方なのですが、リスペクトがある故か、どこかオリジナル作品の面影を感じる作品が多いと、個人的に感じていました。しかし、モーエンセンのJ39はそのような印象がありません。パーツを見れば、直線的でシンプルな様子はシェーカーチェアを踏襲しているように思いますが、デンマークデザインらしい美しさと優しさが感じられます。
“デザイン”という言葉からどうしてもかたちに目が行ってしまいますが、この椅子に関するリ・デザインは、デザインというよりは“考え方”のことを指していたのかもしれません。シェーカー教徒たちの中では、“無駄を排した、率直であり、簡素であること”が美徳とされており、彼らが自給自足で作る家具はどれもがシンプルで簡素的でした。そして、J39をデザインするにあたっての課題が「シンプルで主張しすぎない」「良質かつ、誰でも購入できるリーズナブルさ」。
コーア・クリントを師事していたモーエンセンが、これらの課題とシェーカーチェアを結びつけたのは必然的だったのかもしれません。
この椅子に出会ったとき、ウェグナーの“Yチェア”に対して、目立った特徴はなく“いたって、シンプル”という印象だけが残っていました。しかし、知っていくことで私の中で少しモヤモヤとしていた“リ・デザイン”という概念を変え、おすすめしたい1脚となりました。
モーエンセンの代名詞のようになった直線的でシンプルなデザインの作品を見ると、J39は“リ・デザイン”でありながら“オリジナル”といってしまえるのではないか、とも思ってしまいます。
椅子1脚に対して、あれこれ考える必要はないのだと思いますが、不思議とモーエンセンの椅子は色々気になってしまいます。一見するだけでは掴めない魅力を、是非実際に触れて、座って、その背景を知って感じていただきたいです。
(text:オンラインスタッフ M)