H.L.D. オンラインストア スタッフが、
毎月ひとつの名作=マスターピースに思いを馳せるコラムです。
肩の力を抜いて、普段のページではあまり書くことのないようなことを語ります。
仕事や家事のひと休憩や、帰宅中の電車の中、くつろぎの時間の合間など
是非、気軽にご覧ください。
第12回イームズが情熱を注いだ“おもちゃ”
小さな娘のいるわたしは、おもちゃを目にする機会がたくさんあります。配色やデザイン、機能などに作り手のアイディアが詰まっている感じが好きで、おもちゃ屋さんに行くと娘よりもわたしの方が楽しんでいる気がします。
その昔、そんな“おもちゃ”作りに情熱を注いでいたデザイナーがいました。イームズチェアやプライウッドチェアなどの名作を数多く残した、ミッドセンチュリー期を代表するデザイナー“チャールズ&レイ・イームズ”です。
そのおもちゃのひとつが、2017年から量産化された「イームズ プライウッド エレファント」。愛くるしい表情とフォルムが人気のオブジェですが、イームズ夫妻の長い研究の歴史の中で生まれたものなのです。
その歴史は、イームズ夫妻がプライウッドの研究を行っていた1940年代まで遡ります。 第二次世界大戦中だった当時、2人はアメリカの軍隊のために成形合板の担架や添木、飛行機のパーツなどを製作していました。そのため、家具の研究に使える素材は多くありません。そこで生まれたのが動物のオブジェでした。最小限の素材と既存の設備で製作できる動物のオブジェを研究の過程で作り、そこで生まれたアイディアを家具に転用することがあったそうです。クマ、ウマ、カエル、アザラシと様々なオブジェを作っていましたが、2人が特にお気に入りだったのがゾウでした。これがイームズエレファントの原点です。
段ボールの試作品からはじまり、プライウッドで表現することを試みましたが、当時の技術ではゾウの滑らかな曲線を表現することが難しく、プロトタイプに留まり製品化されることはありませんでした。そのプロトタイプは娘のルシア・イームズにプレゼントされ、後にニューヨーク近代美術館(MoMA)に展示されることとなります。 それから定番アイテムとして量産化されることになったのが2017年。70年以上の月日を経てようやくわたしたちの暮らしにイームズ夫妻が情熱を注いだ“おもちゃ”を取り入れることができるようになりました。
研究の過程でおもちゃを作るなんて、おふさげのように聞こえるかもしれません。しかし、イームズ夫妻は“良いおもちゃがその時代の手がかりをもっている”と信じ、家具デザインと同じくらい重要なものとして取り組んでいました。その結果、様々なデザインプロセス、そして名作が生まれたのです。
イームズエレファントを見ていると、折り紙のようにぐにゃぐにゃと折られているものが「木材」だということに改めて驚かされます。今でこそ当たり前のように複雑な形状のプライウッド製品が数多く存在しますが、イームズ夫妻をはじめ様々なデザイナーが開発に情熱を注ぎ、長い歴史の中で技術を受け継いできた結果といえます。
皆さんの自宅にある何気ないおもちゃにも、メーカーやデザイナーの努力と技術が詰まっているはず。久しぶりに手に取ってみて、昔とは違う観点で見てみると面白いかもしれません。
イームズも、ルシアや孫のディミストリアスと自作のおもちゃで遊んだりしたのでしょうか。イームズ エレファントはそんな家族の思い出の作品なのかもしれないですね。
(text:オンラインスタッフ M)