改めて知りたい“ノグチ コーヒーテーブル”のはなし
誰もが一度は目にしたことがあるであろう、この“コーヒーテーブル”。
20世紀を代表する彫刻家でありデザイナーのイサム・ノグチがはじめて手掛けた「家具」であり、自身も「最高のデザイン」と称する名作です。
“誰もが知っているテーブル”ではありますが、より深く知ることでその魅力が見えてきます。こちらのページでは、名作“ノグチ コーヒーテーブル”にスポットを当て、デザインの起源や実際のテーブルを徹底解剖し、改めてその魅力に迫ります。
まず、“イサム・ノグチ”とは?
20世紀を代表する世界的な彫刻家
1904年 ロサンゼルス出身の日系アメリカ人。NY・香川県を拠点に、彫刻家、造園家、インテリアデザイナーなど多分野で活躍しました。代表作には「赤い立方体」「AKARI」などがあります。
イサム・ノグチは、妹思い
舞踏家のマーサ・グラハムの元でダンサーをしていた異父妹アイリス。イサムは彼女にテーブルやランプなどプレゼントしていました。そのプレゼントは、コーヒーテーブルやシリンダーランプ(現在は生産終了)の元になったとも言われています。
ボールクロックを作ったのは?
ある日、友人の建築家バックミンスター・フラーとデザイナーのジョージ・ネルソンの仕事場に行った際に、制作中の時計を見つけます。イサムがその時計をいじり始めると、フラーとネルソンも加わってお酒片手に夜遅くまでアイディア合戦を繰り広げ、盛り上がりました。翌朝、ネルソンが仕事場へ訪れると、ボールクロックがすでに出来ていたのだそうです。ネルソンは、「ふたつのものを合体させて傑作を生みだす天才、ノグチの仕業に違いない。」と語ったそうです。
コーヒーテーブルが生まれるまで
コーヒーテーブルの原型
1939年、NY近代美術館会長A・コンガ・グッドイヤー自邸にローズウッドを使用して「グッドイヤーテーブル」を制作。これがコーヒーテーブルの原型と言われています。脚に装飾はあるものの、三角形のガラス天板を二つの脚が支えるという基本的なデザインは、この時点で既に完成されています。
ロブス・ジョン・ギビングスの裏切りから始まったテーブル制作
同じく1939年、家具デザイナーロブス・ジョン・ギビングスの依頼で、テーブルの模型を制作。その後ギビングスから連絡はなく、戦争によりイサムは自ら日系人収容所へ。そこで読んだ雑誌で、ギビングスが自らの作品としてイサムのテーブルを発表していたことを知ります。ギビングスの裏切りにイサムは怒り、もっと良いテーブルを作ることを決心しました。
ジョージ・ネルソンの後押しにより、名作テーブルが誕生
ハーマンミラーのデザインディレクターでもあったネルソン。イサムのアトリエを訪れると、彼は妹のプレゼントに贈るガラス板のテーブルを制作していました。ネルソンはその無駄のない美しいテーブルに一目ぼれし、1948年にハーマンミラーから発売にすることとなります。日本では2003年よりヴィトラのライセンスに移行し販売されています。
コーヒーテーブルをじっくり観察
ここからは、実際にコーヒーテーブルをじっくり観察し、その魅力を探っていきます。
コーヒーテーブルを3方向から眺めてみると、それぞれ異なる表情を見せます。置き方や角度によって見え方が変わるという、アート作品のようなテーブルです。
シンプルかつエコノミカルなデザイン
コーヒーテーブルは、2本の脚とガラス天板のみのシンプルな構成。2つの脚部を金具で取り付け、程よい角度に調整したらガラスの天板を乗せるだけ。ネジなどで固定する必要もないので、簡単に組み立てることができます。彫刻的な美しさを持ちながら、このエコノミカルなデザインがジョージ・ネルソンを魅了しました。
重厚感がありながらも、空間を圧迫しないガラス天板
19mmの重厚なガラス天板は、透明なので空間に圧迫感を感じさせません。置いた雑誌やコーヒーカップなどが浮いているような不思議な感覚を楽しめます。また、光が天板を抜け、映し出される影も美しく、ラグや床に模様を付けているかのようです。
ガラス天板だからこそ、楽しめること
透明なガラス天板は、天板下に雑誌や照明を置くことでアクセントとして楽しむことができます。また、テーブルから床が透けて見えるので、ラグのデザインや素材感もより際立ちます。どんなラグやアクセサリーとも相性が良いので、好きなものを好きなように置くだけで様になります。ガラス天板だからこそ楽しめる様々な要素があるのも、こちらのテーブルの魅力です。
“指物”を学んだイサムが生み出したベース
イサムは、11歳の頃に指物師に見習い修業をした経験があります。指物とは、釘などの接合金属を使わずに木と木を組み合わせた家具やその技法のことで、今でも箪笥や机、茶棚などで活用されています。イサムの彫刻作品にも指物の技術を取り入れたものがあり、接合部分を見せないこのコーヒーテーブルのベースからも、そんな日本の伝統技術からの影響を感じます。
イサムの“最高のデザイン”に触れて、感じたこと
ノグチ コーヒーテーブルは、シンプルにそのフォルムを楽しんでもいいですし、ラグやオブジェ、雑誌などと一緒に好みの空間を演出することもできます。一見すると重厚感があり扱いにくいように感じますが、深く知ることで機能的で暮らしに合わせやすい家具であることがわかります。
また、日系アメリカ人であるイサムは、グッゲンハイム奨学金の申し込みをする際に“作品を通じて東洋と西洋つなぐ架け橋になりたい”と記したそうです。このコーヒーテーブルは世界を跨いで、デザインを愛する多くの人を繋ぐ架け橋のような存在になっていると感じました。
“ただ、美しい。でも、それだけではない。”
70年以上も愛され続けている理由は、そんなところにあるのではないでしょうか。