H.L.D. オンラインストア スタッフが、
毎月ひとつの名作=マスターピースに思いを馳せるコラムです。
肩の力を抜いて、普段のページではあまり書くことのないようなことを語ります。
仕事や家事のひと休憩や、帰宅中の電車の中、くつろぎの時間の合間など
是非、気軽にご覧ください。
第24回 いつかのノグチテーブル
私には、いつか我が家に迎えたいと思っているテーブルがあります。
気になる家具は欲しいタイミングに買いたいものですが、これだけは「いつか」なのです。
イサム・ノグチのコーヒーテーブル。
1947年に誕生したこのテーブルは、元々イサムが妹のアイリスにプレゼントするために作っていたものでした。
たまたまアトリエに訪れた友人のジョージ・ネルソンが、その美しいテーブルに一目ぼれ。自身がデザインディレクターを務めていたハーマンミラーで製品化するよう勧めたことで販売されることとなりました。(現在はVitraより販売されています)
そのミニマルなデザインと美術品にもなりえる美しさで世界中に知られることとなり、今なお名作家具として多くの方に愛され続けています。
イサムは経歴もどこかドラマチックです。
アメリカで生まれ、3歳の時に母親と来日し、13歳の時に再び渡米。彫刻家を目指していましたが、一度断念し、高校卒業後コロンビア大学医学部に入学します。ですが、父親の友人である細菌学者 野口英世の後押しもあり、彫刻家オノリオ・ルオトロに師事。
戦禍の混乱に揉まれることもありましたが、持ち前の才能と努力、折々で人生を変える人々との出会いによって、世界的な彫刻家としての地位を築きます。
簡単に書いただけでも何とも濃いエピソードあふれる人生は、まるで映画の主人公のようでもあり、少し憧れます。
素材や形から得られるどっしりとした存在感や、見る角度によって変わる表情、そして美術館で現代アートに対峙したような、様々な思考を不思議と巡らせてしまう奥深さ。
私にとっては虜になるしかなく、“いつか、このテーブルを手に入れたい”と思うようになりました。
そんな“ノグチテーブル”に魅了された私ですが、「今」は買えずにいます。それは、我が家の小さな人達にとっては、この美しい家具も遊び道具にされてしまうから。大人では考えつかない行動をするもので、天板の上に乗ったり、お絵かきの時にペンをはみ出したり、傷になったり…想像しただけで「今ではないな」と思ってしまうのです。
欲しいものを欲しい時に手に入れることは幸せな事に違いありませんが、この「待つ」時間のもいいものだと思っています。「いつか」を楽しみにする事で、その日を迎えたときにより大きな幸せを感じられるからです。
それぞれに事情は異なるかと思いますが、より楽しめる環境や時期にこれから人生を共にできる「モノ」を、皆さんにも是非選んでいただければと思います。
(text:オンラインスタッフ H)