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bbb haus
ゲストハウスと家具の小さな物語
- 03:Tea Room &Hall -
text: H.L.D. スタッフ 清水
海辺のゲストハウス〈bbb haus(スリービーハウス)〉と家具についての連載コラム。今回の第3話が最終回です。
最後のインタビューは、オーナーの「ちょっと話は逸れますが…」からはじまりました。
「計画初期のころ、住める場所をつくろうか?と思った時期がありました。5室の内、1室は常に暮らせる部屋にして、時間をかけて滞在しながらその先に何がみえるのかを体感したいと思ったからです。もし、私たちがここに住むことになったら、仕事の世界とは違うので、本当に好きなものや心地がいいものを置くのではないか。きっとそうすると思います」
だからこそ、この場所を”ホテル”とは謳わずに、”ゲストハウス”としたそうです。
「宿泊施設にしてしまうと、もっと色んなものを用意してしまうと思うのです。しかしそれでは、微妙な違和感が生まれて暮らしとは違う空間になってしまう。この場所がもつロケーションや空間そのものは非日常なのですが、”海辺で暮らすってこんな感じかな?”ということを滞在を通して体験いただきたいと思っています」
オーナー夫妻の考える”心地よさ”の起点は、常に”暮らすこと”にあります。何かをするための場所ではなく、肩の力を抜き、心をほぐして自分をリセットすることを届けたいという思いが、空間づくりに繋がっていました。
敷地内に自生しているミントを飾る
ミニキッチンに備えられているオリジナルの器「小石原ポタリー」
宿泊されるゲストの方は、もともと家具が好きな方もいらっしゃるそうですが、ここへ来て初めてその魅力に気づく方も多いそうです。
「事前に客室を案内することがあるのですが、椅子に座ってもらうのと、もらわないのと、反応が全然違うんです。”椅子に座る”という行為によって、いつも見ている景色が変わり、普段気づかないことが見えてくる。ほんの小さな目線の違いで世界が変わるような、そしてずっと座っていたくなるような、椅子はゲストをそんな気持ちにしてくれるようです」
空間と家具の心地よさを通して、人生初の出会いを届けられたことに意味があると笑顔で話されるオーナーの言葉に、新しい出会いこそ何よりの贈りものであると、私も思ったのでした。
202号室 2階から眺める景色は水平線と視点が重なり海を独り占めできそう
では、今回のメインである「ティールーム」と呼ばれるカフェスペースへご案内いたします。
窓際にずらっと並ぶのはイームズのファイバーグラスアームチェア。鮮やかな色彩が空間に映え、夏季には降り注ぐ光と青空に対比して元気が出る色合いです。テーブル席には同じくファイバーグラスのサイドチェア。繊維素材が、控え目なホワイトに個性を与えます。視線を落とすと重なったシェルが花びらのような陰翳に。工業製品であるにもかかわらず冷たい印象を受けないのが不思議です。すっきり4本脚を選ばれているのも、さり気なくていいですね。
DFAXレッド(ハーマンミラー)窓辺はゆっくりと過ごしたい方の特等席です
DFSXホワイト(ハーマンミラー)身体にフィットする座り心地は、さすが名作
ティールームは宿泊の方以外でもご利用いただけますので、糸島ドライブのひと息にぜひお立ち寄りください。食後にテラスをゆっくり散歩してみるのもおすすめです。ティールーム、ダイニングルーム、ラウンジは海側に面して配置されているため、各部屋から海を望むことができます。テラスからダイニングルーム室内を覗くと、大きな窓越しからドムスチェアと反射する海の色をみつけ、こちらから見る世界も幻想的でした。
※ダイニングルーム、ラウンジについては第1話をご覧ください。
テラスウッドデッキからダイニングルーム外観をみる
外から室内を覗くと、同じ場所でもまったく違う世界のよう
ゲストハウス内を歩いていると、所々に色彩豊かな草花を見かけます。鉢植えの観葉植物や中庭の植物は近所の園芸屋さんがお世話をしてくださっているそうです。切り花はスタッフが糸島の産地直売所や花屋さんで調達したりと様々。毎朝の水替えは気持ちがスッキリとする時間だと、話されていました。
ほのかに色づくシンビジウム
カラーやスプレーマムが鮮やかに咲く
建物内には、50名ほど収容できるホールがあります。
元の平面計画にもあった場所をそのまま活かし、ホールとして使えるようセブンチェアが規則正しく並んでいました。ゆくゆくは挙式ができる空間にしたいのだそう。一同に並ぶセブンチェアには集合体としての美しさがあり、家具も空間を構成する大切な要素であることが伝わってきます。
ホール内は天井が高く、規則正しくセブンチェア(フリッツ・ハンセン)が並べられています
光を受け陰翳とともに圧巻の美しさを放っていました
終日の訪問を終え、ラウンジへ戻ってくると室内はすっかり暗闇に包まれていました。
灯りをつけると昼間とは違う表情を見せ、静けさが一層際立ちます。聞こえてくるのは自分たちの声と波の音だけ。自然に囲まれた糸島という場所だからこそ、感じることのできる贅沢な時間です。
最後にレ・クリントの照明をご紹介して家具の物語を綴じたいと思います。
レ・クリントは、コーア・クリントの兄ターエ・クリントが1943年に創業した照明ブランドです。デイベット横にあるフロアランプModel325は、ヴィルヘルム・ウォラートによって物理学者ニールス・ボーア(1922年ノーベル物理学賞受賞者)の自邸改装の際にデザインされたもの。同じくウォラートによって設計された同氏のサマーハウス(1957年)は、2004年にデンマーク重要建築物に指定されています。ウォラートの代表作ルイジアナ美術館もとても素敵な場所ですので、デンマークへ行かれた際にはぜひこちらにも足を運んでみてください。
木製のスタンドがどこか懐かしさを覚えるフロアランプModel325(レ・クリント)
「いつか暖炉を備えたい」という場所を囲むCH25(カール・ハンセン&サン)
今回の〈bbb haus〉訪問とオーナー夫妻から伺った話を通じて共通して感じたことは、ここにはほどよい”距離感”があるということ。自然との距離、人との距離、家具との距離。快適に滞在していただけるように、ホストとして用意しているものは、整った設備やサービスではなく、ほどよい距離感なのだと思います。
「ここに滞在する人が、気負わずに、自分らしい快適な空間というものを自分自身のライフスタイルに置き換えて想像できるような場所であり、明日からまた頑張ろうと、リセットできる場所で在りたいと思っています。その人の気持ちを大切に、素直な気持ちを大切にしながら、ここにある自然・建物・時代・家具を受継いで、今、これからの人に提供していきたいです」
〈bbb haus〉について、オーナーが最後このように話してくださいました。
改めて、ものづくりは使い手のためにあるのだと思いました。ここには、歴史があり作り手の思いが込められたものが多くありますが、それらは全て人の暮らしを支えるために作られ選ばれてきたものです。だからこそ、主張はしないけれど傍にあると心地がいい。
自然と人と家具とのほどよい距離感を大切に、この場所もまた、次の世代へと受継がれることを願っています。
おしまい
bbb haus(スリービーハウス)
写真:勝村祐紀(勝村写真事務所)
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