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bbb haus
ゲストハウスと家具の小さな物語
- No.01:Lounge -
text: H.L.D. スタッフ 清水
2019年のある日、海辺のゲストハウス〈bbb haus(スリービーハウス)〉を訪問しました。
築47年の建物を改修したゲストハウスには、丁寧に選び抜かれた家具や小物がしつらえられ、穏やかな時間が流れていました。今回のスタッフコラムでは、この場所に置かれている家具を中心に、ものづくりの背景やそれらに纏わる物語をご紹介します。訪問前、私はオーナー夫妻にこのゲストハウスができるまでの話を伺いました。とても素敵な内容でしたので、その話からはじめたいと思います。
「建物の奥にこんな風景があるなんて思いもしなかった」
福岡市の中心部から車で30分ほど西へ向かうと、海と山に囲まれた自然豊かな地区、糸島市があります。
かつて企業の保養所兼研修センター(1972年竣工)だった建物と縁あって出会い、ゲストハウスとして新たな歴史を刻んでいくことになりました。日々の暮らしの中で”もの”を通して得られる時間や体験に価値があるという信念の下、それらを体現するための施設として、2018年2月に〈bbb haus〉をオープン。その時のことをオーナーが当時を振り返りながら話してくださいました。
「改修前の建物は、3400坪の敷地に建築されている2階建ての低層で、客室が1階3部屋と2階3部屋。目の前に海があり、大自然があり、それだけでも十分贅沢な立地でした。最初に訪れた時は、まさか建物の奥にこんな風景があるなんて思いもしませんでした。しかし、元々のゾーニングは、海が一望できる一番いい場所がエントランスになっていて、部屋の窓も小さく閉じた空間でしたので、すごくもったいなく感じ、躯体を活かしながらもこの場所が持つ魅力を最大限に活かせる空間にしたいと改修をスタートしました。当初はリゾートホテルのようなイメージもありましたが、自分たちの目と手が行き届く範囲で、私たちが考える”おもてなし”を届けられるにはどうすればよいか? それを考えた末に出た答えが、”ゲストハウス”でした」
右手に現在のダイニングルーム格子のガラスが空間に奥行を与えている
ダイニングルーム内観 元々閉鎖的なエントランスだったスペースを全面窓ガラスで明るい室内に。食事をしながら海を一望できます
そのヒントになったのが、アメリカのあるゲストハウスだったそうです。
「古い建物内には当時の家具がごくあたりまえに置いてあり、とんがっておらず、家具も建物も単純に歳をとっていました。今では”名作”と呼ばれるそれら家具は、デザイナーの知恵と作り手の技術が重なり生み出されたものです。考え抜かれたデザインには意思があり、歴史が刻まれ、今も私たちの暮らしに寄添っているのだと思います。だからこそ、とんがっていない、心地よい空気が滲み出ていたのでしょう」
それを”自分たち流”にアレンジしたら?をトコトン考える
bbb hausへ実際に訪れると、アメリカでインスピレーションを受けながらも北欧の雰囲気がベースとなっているようでした。それは家具のテイストではなく、北欧の人々が大事にしている暮らしやものづくりへの考え、シンプルなデザインに共感しているからとのことでした。家具はアメリカや北欧デザインが中心ですが、小物やアートには日本の作家さんのものを選ばれ、こだわり抜いたリネンやオリジナル商品も交えた空間。”自分たち流”の心地よさを日々トコトン考え更新されている空間には、bbb hausならではのゆったりとした時間が流れていました。
イームズラウンジチェア(ハーマンミラー)
石本藤雄さんの器 大宰府天満宮の展示会にて購入したもの
使い心地にこだわって作ったオリジナルタオル
100年もつ素材と100年もつ技術により、100年愛されつづけるデザイン
ここでは、歴史とともに永く愛されてきた家具がゲストを迎え入れてくれます。
ラウンジで出迎えてくれたのはベアチェア。本国デンマークでは”パパベアチェア”と愛らしく呼ばれているこの椅子は、1954年頃にハンス・J・ウェグナーが手掛けたもの。”パパ”の他に、”ママ”ベアチェア、”ミニ”ベアチェアの親子シリーズです。オリジナルはAPストーレン(現在は廃業)ですが、その後、一度廃盤となり、2003年PPモブラーが受け継ぎ復刻しています。そのものづくりの精神が評価され、2019年にはPPモブラー創業者のアイナさんが、デンマーク王室より勲章を受章されました。ウェグナーとPPモブラーの協働のきっかけともなった両者にとって思い入れ深いベアチェアは、現在も当時の製法に習い、効率ではなく品質を求め、すべて天然素材を使用するというこだわりを持って作りつづけられています。
ウェグナーが、自身のお気に入りの椅子として最後に選んだ1脚。座る人を大らかに包み込んでくれる優しい椅子です。
パパベアチェア(PPモブラー)
壁面にヴィンテージウォールユニット「ロイヤルシステム」(カド)
つづいてウェグナーのキャビネット。
Ryモブラー製のヴィンテージ品は経年変化とともに木が馴染み、落ち着いた雰囲気を持っていました。ウェグナーの才能はメーカーの強みを理解し、技術に応じたデザインを提供できたところにあります。Ryモブラーは”箱モノ”を得意とするメーカーでしたので、キャビネットやチェストを中心に手掛けていました。日本は畳の生活文化だったので、箪笥やチェストに”脚”がつくことはなかったのですが、北欧ではこのような”脚付き”が一般的です。機能としての収納力はもちろん、デザインも軽やかで美しく見た目も上品。そして、丁寧にメンテナンスを行うことで、使いながら自分の空間に馴染んでいきます。育てる楽しみがあるのもまた、家具のよいところです。
左|ヴィンテージソファGE236(ゲタマ) 右|ヴィンテージキャビネット(Ryモブラー)
カトラリーやカップを収納する食器棚として活躍中
コロニアルチェアは、アームの曲線が本当に美しく控えめで主張しないデザインです。
オリジナルはPJファニチャーですが、現在はカール・ハンセン&サンが復刻しています。こちらは現行品です。オリジナルと比べると少しアームが太くなったかな?という印象はありますが、しなやかな曲線は変わらず受け継がれています。コロニアルチェアを手掛けた時、オーレ・ヴァンシャーは40代半ば。ちょうど同じころ、11歳年下のウェグナーはCH24(Yチェア)やCH25などをカール・ハンセン&サンで制作しています。両者比較すると、やはりヴァンシャーの方が大人の品があるのは年の功かなと感じます。背の”ツノ”は研究者として長年研究をしていたイギリス伝統様式の名残でしょうか。彼なりの「リ・デザイン」ですね。
コロニアルチェア(カール・ハンセン&サン)美しいアーム
背の”ツノ”部分には、取り外し可能なクッションが掛けられるように
イルマリ・タピオヴァーラのドムスチェア。
フィンランドヘルシンキの学生寮ドムス・アカデミカのためにデザインされた椅子です。1914年生まれのタピオヴァーラは、ウェグナー&モーエンセンと同級生。アルヴァ・アアルトに強く影響を受け、ル・コルビュジエ、ミース・ファン・デル・ローエの事務所で勤務していたという経験豊かな人物です。ダイニングルームと呼ばれるレストランに並ぶドムスチェアは、レザーのパディング仕様となっていますので座り心地もよく、ゆったりと食事を楽しむゲストをもてなしてくれます。フィンランドらしい有機的なフォルムが愛らしいタピオヴァーラの代表作であり、近年日本でも、ミナペルホネン皆川さんとコラボレーションをするなど、人気が広がっているようです。
ドムスチェアフルパディング仕様(アルテック)
ダイニングルームに飾っているヴィンテージポスター
北欧の灯りと言えば、ポール・へニングセンの照明。
対数螺旋を用いた緻密な計算の下に生まれたPHシリーズの照明は”光”そのものがデザインされています。電球の荒々しい光をいかに美しく心地よいものにできるかという命題に対し「これに勝る照明はない」と、ヘニングセン曰く”完璧な出来”とのことです。フロントデスクに置いているものは、2015年に限定発売されていたカッパーモデルのテーブルランプ。入荷したばかりの頃は、輝くピンクゴールド色でしたが、時間を経て渋さが滲みでていました。
へニングセンとヤコブセンとアアルト
デンマーク系ユダヤ人であるヘニングセンとヤコブセンは1942年当時、ナチスドイツの迫害から逃れるためにスウェーデンへ亡命。その時に彼らを手助けしたのがアアルトであったという逸話が残されています。こんな風にbbb hausを眺めていると、デザイナーたちが会話しているように見えてきます。好きな家具に座って彼らがどんな話をしていたのか、そんな想像をして過ごす時間もこの場所の楽しみかもしれません。
経年したPH 3½-2½カッパー テーブルランプ(2015年限定)
時間の経過を感じさせる、深みのある色になっています
アアルトのティートロリー(アルテック)
建物には中庭も併設されていて、何度か宿泊いただいているリピーターさんは、少し早めにチェックインを済ませ、ここで本を読まれたりお茶を飲んだりされているそうです。糸島の自然は毎日表情を変え、訪れる度に新しい発見があります。この日は曇り空で青い空と青い海を見ることはできませんでしたが、室内は柔らかい光に包まれていて、静かな空間にいつもより感性が研ぎ澄まされる感覚は、一番の発見だったかもしれません。
今日はここまで。次回は、ゲストルームへご案内いたします。
併設されている中庭からラウンジを眺める 窓辺にはCH25(カール・ハンセン&サン)
ラウンジを抜けるとゲストルームへ
bbb haus(スリービーハウス)
写真:勝村祐紀(勝村写真事務所)
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